薄膜の結晶成長モードの一つに、2次元成長から3次元成長への成長モードの遷移を生じるStranski-Krastanov(SK)成長モードと呼ばれる成長様式があり、 例えばGaAs化合物半導体の基板上にInAs化合物半導体を結晶成長させると、初期成長の段階においてSKモードの成長が起こります。 SKモードの主な要因は、基板結晶(GaAs)と薄膜結晶(InAs)の格子定数の差(格子不整合量, 7.2%)にあり、InAs成長量の増加に伴なう格子歪による 系のエネルギー増大を抑制するように2次元から3次元への成長構造へと遷移します。3次元成長を引き起こして直ぐに成長を停止させると、 20ナノメートル(nm)程度の極めて小さいピラミッド状のInAs微小結晶粒が、1平方センチメートル当たりに約1兆個も自己組織的に形成されます。 InAs微小結晶粒のサイズは、成長条件により電子の波長程度に制御することが可能です。このInAs微小結晶粒の周囲をGaAs層で埋め込み成長を行うと、 InAs微結晶内の電子(または正孔)は高いエネルギー障壁を有するInAs/GaAs界面により3次元的に閉じ込められ、量子サイズ効果を発現します。 このInAs微小結晶粒をInAs量子ドット(Quantum Dot, QD)と呼びます。
本研究では、上記のSKモードを利用した自己組織化成長により高密度で良質なInAs量子ドットを作製しますが、デバイス作製の観点においては、 全ての量子ドットのサイズを均一に揃える必要があります。これまでのSKモードによる作製ではサイズの不均一性が大きな問題点でしたが、 本研究では、SK成長条件を詳細に調べ、量子ドット構造の形成メカニズムについて検討してきました。 2000年には、量子ドット構造が安定な微小結晶面に覆われ、サイズが自己停止する現象(サイズ自己制限効果)を初めて発見し、世界トップクラスの高均一な量子ドット構造を 作製することに成功しました(ref.1)。 また2006年には、高均一な量子ドットの層上にさらに量子ドット層を近接積層させた構造を作製し、さらに均一性を向上させることに成功しています。 2009年には、高密度でかつ高均一な量子ドットの作製法を開発し、量子ドットの国際会議にて表彰されました(ref.3)。 本研究テーマでは、さらに超高均一な量子ドット構造の作製制御法の開発を目指し、量子ドットデバイスの応用展開を目的としています。
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